明りを消した浴室で風呂に浸かっていた
よく知っている かの女がドアを開けた
こんなこともありかも
電光パネルの光が姿態を青黒く染めていた
肩までの黒い髪は内側に向かってぴょんと跳ねていた
ぼくは両膝を抱えた 水面がちゃぴん……音を立てた
「もう上がるとこだから」震える声で言った
かの女は困ったような顔を無理に笑わせた
「戻ってなよ」ぼくは奇妙な声で言った
静かにドアが閉まった ぽったりした身体が曇りガラスに映った
かの女は窓のない部屋で待つだろう 紺色のバスタオルを巻いて
どんな言葉も持たず ひたむきな顔で
目に見えないものたちの願いを果たすために 硬いベッドに腰かけて
ぬるくなった湯に頭まで沈めてみる
生まれる前はきっとこんな感じだったはず
冷たい春の雨が音を立てずに降り続いている
この小さな窓の外で