水今novels

ちびブログです

春雨

明りを消した浴室で風呂に浸かっていた

よく知っている かの女がドアを開けた

こんなこともありかも

電光パネルの光が姿態を青黒く染めていた

肩までの黒い髪は内側に向かってぴょんと跳ねていた

ぼくは両膝を抱えた 水面がちゃぴん……音を立てた

「もう上がるとこだから」震える声で言った

かの女は困ったような顔を無理に笑わせた 

「戻ってなよ」ぼくは奇妙な声で言った

静かにドアが閉まった ぽったりした身体が曇りガラスに映った

 

かの女は窓のない部屋で待つだろう 紺色のバスタオルを巻いて

どんな言葉も持たず ひたむきな顔で

目に見えないものたちの願いを果たすために 硬いベッドに腰かけて

 

ぬるくなった湯に頭まで沈めてみる

生まれる前はきっとこんな感じだったはず

冷たい春の雨が音を立てずに降り続いている

この小さな窓の外で