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水と今

かくして君は待つ、ある人が現れるのを。君の命をとめどなく膨らませにやって来るのを。(リルケ)

秋の夜長はベンチで……(日本酒篇)

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昨晩のこと。

夜中、自室で単純かつ長い作業がひと段落した。酒が呑みたいな……それも野外で。

御猪口をラップにくるみ、デニムシャツの胸ポケットに入れて出かけた。駅前のローソンで呑みなれた日本酒を買い求め(柿の種も買おうと思ったが、かじる音が静かな通りに響き渡りそうなので止めた)、大通りのベンチに腰掛けてちびちびと飲んでいた。静寂と、秋の澄んだ外気は飲み慣れた御酒にぴりっとした風味を添えてくれていた。

しかし大通りベンチは比較的人気の場所であり、たとえ深夜であろうと、いつでも誰かがやってくる。斜め向かいに座った会社員風のうら若きカップル。やたら初々しい口調で続けていた会話(「明日、お兄ちゃんの誕生日なんだー」「え、俺も何か買ったほうがいいかな?」「いいよー、そんなことしたらお兄ちゃん、むしろ怒るよ」「わ、こえー」)をぴたりと止めて、

私が小瓶からお猪口に酒を注ぐのを興味深そうに眺めているような気がして(あるいは自意識過剰かもしれないが)、なんだか落ち着かない。お猪口を置き、iPhoneをいじる(フリをする)。

やがてカップルは立ち去った。やっと落ち着いて呑める……。

 

と思いきや、「あれ、こんなところで何やってるんですか」

聞き覚えのある声が薄闇の中から響く。見ると、歳近い知人男性であった。遅い仕事帰りらしい。

「それ、もしかして……御猪口ですか? いや、凄いなあ。そういうの、しょっちゅうやるんですか?」感心しているような、呆れているような(たぶんこっちだ)

彼のハスキー・ヴォイス。

「いやいや、しょっちゅうじゃないけど、ほら、夏に外でビール飲むとおいしいじゃないですか? 秋だし、今日はあんま寒くないし、冷酒かなって」などと私は答える。本当はも少し気の利いたことが言いたいんだけど。「このお猪口ちゃんが『今日は外に連れてって』って言ってきかないんでね」、とかね。

それから彼とベンチで7分くらい、当たり障りない会話を交わした。1杯勧めるべきか迷ったが、彼は紙パックのコーヒー牛乳を手に持っていたので勧めなかった。彼と別れ、ややほろ酔いになりながら、西友で買い物をして帰宅した。外に居た時間はだいたい1時間半くらいだろうか。

自室に戻り、スタンドライトを点け、大きくため息をつく。猫はベッドの上でこんこんと眠っている。まるで白いマットのように。私は電気ストーヴを点け、買い置きしておいた小瓶をもう1本開けた。そして映画『バードマン』を観ながら、明け方、眠った。