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水と今

かくして君は待つ、ある人が現れるのを。君の命をとめどなく膨らませにやって来るのを。(リルケ)

5月のような無為(前・後)

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《前編》

今日はしばし遠ざかっていた夏の陽射しと暑さが戻ってくると噂されていました。でも起きてみると、ちょっと様子が違う。おそるおそる窓を開けてみる。と、あれ、この空気……? まるで5月のような、何かむせかえるような、ふいに気ぃ緩まされるような不意打ち的にたおやかな息吹がふうわり蔓延しています。手っ取り早く言うと、やけにあったかです。蝶々の姿は見えませんが、飛んでてほしいところ。

現在は夜です。そんな午後の外気のせいか、今日はここまでのところ、「無為を行為している」というか、手っ取り早く言うと、まるきりなんもしてないです。かろうじて生きてはおりますが。僕といういち存在は何にも誰にも(ほとんど)影響を及ぼしていないように思われます。食べものを少々調理して小動物の餌皿と水皿を替えたくらいで、生産活動も、消費活動も、慈善活動も、芸術活動も、今のところ、私とはまるきり無縁です。

すっかり夜の帳が下りた窓の外の闇を(たった今)見やった。ちょっとばかり気が急いてくるのを感じる。元気な常人らしく、何か、しなきゃって思う。だって生きているんだもの。隣町まで歩いていって、白河中華そばすするんでもいい。昨日買ったビール缶を開けて紙コップに注いで飲むのもいい。週末の名曲喫茶のために、新しいメニューをプリントアウトするんでもいい。無目的に、電車に飛び乗ってみるのもいい。とにかく、動こう。

でも、動けず。私は長いことじぃっとしていると、どこまでもじぃっとし続けてしまう、そんなミノムシ型人間なのです。こんなミノムシに特効薬はないの?

あります。それは熱い濃い1杯のカップ・オブ・コーヒーです。ちょっと待っててください、淹れてきます……(たぶん18分くらいかかりますので、続きはまたのちほど)。

 

《後編》

さて、日付変わってしまいましたが、結局、コーヒーは飲まず、ビール(サントリーの「プレミアム・モルツ・ペールエール」といういかにも軟派な代物)を飲みながら中年男性らしくパスタを茹で、食後に日本酒をきこしめし、2日ぶりにいささか酔っております。

そうそう、先程、買い物帰りに商店街で(元)玩具屋さんご夫婦に20年ぶりにお会いしました。小学生の時分、誰もが買えずに地団駄踏んでいた『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ……』(ファミコンのゲームです、念のため)をこっそり取り置いてもらったり、僕の作った下手なプラモデルを店頭ショーウィンドウに飾ってもらったりと、たいへんお世話になったご夫婦。

かつて、てきぱきと働いていらした奥様はすっかり腰が曲がっていましたが、瞳の若々しい輝きは昔のまま、いえ、昔以上でした。そして若かりし頃はスノッブな苦笑がお似合いだったご主人は、そんな奥様の手をしっかりと握られて、じつに穏やかで優しげな面持ちになっていらして、なんだか照れて目を合わせられない。

ご主人に「おい、チビ助、ずいぶん背が伸びたな」と言われたので、「身長は20年前から変わってないですよ」と返したのだけど、きっと僕の声は届いていなかったことでしょう。「そのヒゲは余計だ」と言われたので、剃ります。

この日、久方ぶりに会えたお2人の姿が、夏バテで弱りきっていた僕の心にひとすじの光(のようなもの)をもたらしてくれました。 ありがとう。お元気で。